提供元から現在までの生産・加工を追跡
現段階で言われているIoTは、装置に取り付けたセンサからのデータを吸い上げ、自社で分析し活用するレベル。または装置メーカーがユーザーに販売した装置をサポートするためにデータを集めて遠隔監視をする程度。データを誰が、どこから、どのように集めたかが分かる範囲で使っている。
しかし今後、データそのものが市場で流通するようになると、データの出どころや取り扱い履歴の把握が難しくなり、データのトレーサビリティが重要になるが、その仕組みや技術は整っていない。それに対し富士通研究所は、企業をまたがってデータが流通する時代にデータのトレーサビリティを実現してデータ信頼性を確保する技術を開発した。
データの信頼性 確保へ向け開発
今後のデータ主導型社会では、実社会から取得されたデータはサイバー空間に入って売買され、企業等が分散したデータを加工・組み合わせて新サービスや社会的課題の解決策を作り、実社会に戻ってくるというサイクルになると言われている。
同社はそうした社会では、データそれ自体が信用できるもの(トラストなデータ)でなくてはならないとし、業種業界を超えたデータ流通の信頼性を向上する技術として「Chained Lineage(チェインドリネージュ)」を開発した。
通常、データはいったん市場に出回ると履歴を追うことはできず、最終データがいくつのどんな企業を経たものかは把握しようがない。またそれが途中で加工されていても、どこをどう加工されたかは分からない。これではデータの信頼性が担保されないので企業がデータ活用したくてもできず、データ社会に向けて大きな問題となっている。
それに対し同技術は、現在のデータからさかのぼってデータ提供元までデータ生成と加工の履歴を追跡が可能。ブロックチェーンを応用した富士通VPXテクノロジーを利用し、取引履歴と加工履歴を統合して管理することでトレーサビリティが可能。改ざんもできないようになっている。
また個人情報に関しても、本人が同意した個人データのみ流通できるようにするのでセキュリティとしても安全性を実現。企業間で共有して使える同意ポータルを用意し、本人が同意したデータだけをVPXに送信する。
具体的な利用想定としては、自動車から得たデータを自動車メーカーや分析会社等が加工し、最終的に保険会社がそのデータを購入して個人用にカスタマイズした自動車保険サービスを提供する際の情報管理や、病院が患者を診察したデータを本人同意のもと創薬メーカーに提供して新薬開発に利用するなど。
データを収集・管理する企業と、分析や最終的にサービスとして提供する企業が異なる際などで特に必要とされる。
佐川千世己常務取締役は「これからは信頼できるデータだけが流通する時代にならなければならない。そのためには情報の履歴を追えるフィードバックループが必要で、これはその第一歩になる技術だ」と話している。
▲佐川千世己常務取締役