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IoT技術を活用した新規事業立ち上げにおける先端人材とコンセプト検証の重要性

ET/IoT Technology 2018 スペシャルトークセッション
『IoT技術を活用した新規事業立ち上げにおける先端人材とコンセプト検証の重要性』

 2018年11月14日より、パシフィコ横浜で開催された「ET/IoT Technology 2018」、最先端のエッジテクノロジーを集めた展示会として注目を集めた。2日目となる15日、会場内のメインステージに立ったのは、DMM.make AKIBA エヴァンジェリストの岡島康憲氏だ。
 登壇テーマは、『IoT技術を活用した新規事業立ち上げにおける先端人材とコンセプト検証の重要性』、対談のモデレーターには、前日に引き続きアペルザCTOで、IoTナビの技術ディレクターでもある塩谷が登場した。当サイト読者の多くも気になるであろうこのテーマ。当日は会場にいた来場者からも大きな関心を集め、ほぼ満席となった。是非、最後まで読んでみてほしい。
●シリーズ第1回 『3人の“技術者”が語る、人と技術の向き合い方』
●シリーズ第2回 『IoT技術を活用した新規事業立ち上げにおける先端人材とコンセプト検証の重要性』

IoTのスタートアップをサポートしたい

塩谷:本日はよろしくお願いいたします。まずは岡島さんの自己紹介から。

岡島:キャリアのスタートはNECです。Webサービス部門で動画の配信サイトの企画や個人間送金に関するサービスなどを担当、企画開発・営業・などを7〜8年行った後、ハードウェアとWebを組み合わせるとおもしろいことができそうだと思い、2011年の震災直後にIoT系のデバイスを作る会社を立ち上げてハードウェアの製造販売やコンサルなどをやっていました。2014年にDMM.make AKIBAの立ち上げに関わり、最近ではデータのビジュアライズを行う会社も立ち上げています。IoT・InsuranceTech・FinTechなど、テクノロジー活用が活発なビジネス領域やスタートアップ、オープンイノベーションなどに興味がありますね。

塩谷:どういう経緯でDMM.make AKIBAの立ち上げに参画されたんですか?

岡島:DMMは、外部の知見を取り込んでサービスを作っていくということをよくやっている会社です。IoTのスタートアップがこれからどんどん増えてくるので、日本でIoTを盛り上げるためにもそういったスタートアップが集まる場所を作るという話を知人の投資家がDMMの責任者と話をしており、DMM.make AKIBAを立ち上げることになったんです。私自身は、その投資家の方と以前から知り合いだったこともあり、ハードウェアもソフトウェアも両方知っていて、自分自身でも商売をしているということで、IoTのスタートアップを支援・フォローするには適任ではないか?とお誘いいただきました。

塩谷:どのような活動をされているのでしょうか。

岡島DMM.make AKIBAは、IoTを軸にしたハードウェア・スタートアップの活動拠点として設けられました。そのため、CNCなど素材を加工する工作機械・電子基板を実装する装置まで、さまざまな機材を使用できるシェアファクトリーとシェアオフィスの機能を備えています。どちらの設備も24時間やっているので、夜中に行っても誰かが穴を開けている…というような場ですね。

いろいろなスタートアップに活動いただいており、例えばネットワークに繋がってライティングのパターンを変える光るスニーカーを作っているチームや、車載用のデバイスを作っているチーム、鏡にカメラとマイコンを組み合わせて女性向けに化粧のサポートをするチームなども入居しています。これまでに300社以上の企業がAKIBAを利用していますが、そのうちスタートアップと呼べるチームは100社を超えています。

IoT領域で成功するために必要なチームづくりとは

塩谷:ありがとうございます。今回のセッションテーマの一つである「人材開発と組織づくり」について、岡島さんの視点から、ぜひ教えてください。

岡島:今回は、人材育成とコンセプト検証をテーマにお話できればと。どちらも最近、色々な会社から相談されることが多いんです。メディアでよく“IoT”をみかけるので、自社でもIoTをやらないといけない、ただ自分たちはハードウェア一筋/ソフトウェア一筋のため、そういう自分たちがどうやってIoTの事業を立ち上げて、事業として成功させればよいのか?といった不安感が、根本的なニーズとしてはあると思います。

ここで、皆さんのことについてお伺いしたいのですが、どちらかというと自分の活動領域はソフトウェアよりだという方、どのくらいいらっしゃいますか?

 (会場挙手)

ありがとうございます。半分くらいいらっしゃいますね。どちらかというとハードウェアよりだという方は?

 (会場挙手)

こちらも、半分くらいいらっしゃいますね。管理職なのかメンバーなのかですと、いかがでしょうか。どちらかというと管理職という方は?

 (会場挙手)

けっこういらっしゃいますね。どちらかというと、現場で手を動かして、ソフトウェアやハードウェア書いていますという方は?

 (会場挙手)

ちらほら…という感じですね。ありがとうございます。

皆さん日頃から感じられていることだと思うのですが、本当にIoTって扱う範囲が広いんですよね。ソフトウェアやハードウェアが必要で、今であればクラウドが必要で…と。ITやモノやら、考えなくてはいけないことがたくさんあってたまらん…という話を本当によく聞きます。

さらに、偉い人から「君、IoT部分をやってくれよ、人を探さないといかん」と言われる。とはいえ、これが全部分かる人は希少です。Webもハードウェアも分かっていて、サービス設計もできる人はまずいないですし、そういう人がいたとしても、その人一人で全部を作ることは難しいと思います。そのため、ポイントとしては、広い領域をカバーできるチームをどうやって作るのか?という話になる。チームづくりというのが、一つ大きなキーワードになると思っています。

文化の違いを理解することと「通訳」となる人材の存在の必要性

塩谷:なるほど。チームを作るためにどのようなことが必要なのでしょうか。

岡島:1つは、文化の違いを受け入れること。あとは2つの文化があるのであれば、横断領域をつなぐ人が必要です。こういったところを意識して、人材の獲得もしくは育成をしなければいけないと思います。

モノ側とIT側とひとくちにいっても、文化もまるで違いますし、開発の時間間隔や手戻りに関するコスト感であったり、ハードウェアの商売とITソフトウェア側の商売と全く違うので、そのあたりの違いをお互いに認識することが非常に大切です。

塩谷:具体的にモノ側のエンジニアとIT側のエンジニアで、こんなに違うということはありますか?

岡島:半分笑い話みたいなものなんですけど、私はもともとソフトウェア開発やWebサービスを開発していました。Web系のソフトウェアの開発スタイルは、こういうことをやってみようかと画面に書いて、機能を画面に出して、ちょっとコード書いてみようか、とその場で書いて、DB叩いてみて、なんかデータ違うの出てきちゃったよ…ちょっとこれ修正しないとね…とか、間違えてDBの中のテーブル1個消しちゃったよ…とかあるある、ですよね。

塩谷:あるある、ですね。

岡島:ですよね。その文化で生きてきた人が、自分なりにハードウェアを作ると何が起きるのか。ある日突然基板から煙がでるんですよね。ハードウェアって、Ctrl+Z(編集注:「元に戻す」のキーボードコマンド)がきかないんです。これ、ずっとソフトウェアをやってきた人間からすると、割とアハ体験なんです。

塩谷:戻せないですもんね。

岡島:しかも、ソフトウェアの場合って、例えばサーバーを足す必要がある場合、クラウドサーバーをうまく使えば、クリック1つでサーバーが立つんです。ハードウェアはどうか?というと、ここにボタン1つ増やしましょうかという場合には、金型修正が必要になったり、金型修正する前にテストするための部品を注文しよう、注文するならメーカーの人と打ち合わせしようとか、そういう感じになる。

開発時間のコストに対する違いが大きく、それがダイレクトに開発に対する戦略に影響してくる。そのため、このあたりの文化の違いをソフトウェア側とハードウェア側がそれぞれしっかり認識しているかが重要になります。

それぞれのジャンルの人とだけ話をしていると、話はスムーズに進むのですが、両者がお互いにコミュニケーションをとって開発戦略を作っていかなければいけないのが、IoTソリューションのプロマネのしんどいところだと思います。ちゃんと現場のエンジニアメンバーも含めて文化の違いを認識することが大事です。

とはいえ、文化の違いを認識したところで、「モノ側の人はこういう世界観で生きているから、こういうところに注意してソフトウェア側で●●にしてよ」とか「このテーブル構成はソフトウェア側で吸収してよ。逆にここはハードウェアの方でワガママ聞いてやってくれよ」というような調整役というか、通訳になるような存在が必要になります。

塩谷:そういった人材を育成するためにはどんなことが大事になるのでしょうか。

岡島:ひとつは、色々な勉強会にエンジニアを行かせることです。モノ側の会社であれば、自社のエンジニアをIT系の勉強会に行かせる。それは、休みの日や業務時間外に行かせるのではなく、業務として参加させてください。少なくとも、それぐらいの勢いを持って、IT系の知識、特に文化を学ばせてください。例えばIT系・Web系のサービスは下手すると半年前のサービスは古くなってしまうなど、そういうスピード感に慣れさせることが必要です。

逆に、IT系の人たちも違うところの文化を知る必要があります。昔はもの系の人材が集まるイベントは皆無だったのですが、ここ7〜8年くらいで変わってきて、もの系のエンジニアが「こんなものを開発しました」「こんなところが開発でつらい」といった情報を発信するようになってきています。こうしたもの系のイベントに自社のIT系のエンジニアに行ってもらい違う文化の存在を知ること、そこからではないかと思います。

先ほど、通訳の人材という話がありましたが、器用貧乏ではダメで、どちらかのスペシャリストである必要があります。ハードウェアのスペシャリストでした、でもITのことをちゃんと話せますよ。もしくは、ITのスペシャリストでハードウェア側のことも少しわかりますよ。そういう人材を自社で育成していかないと、ものすごく高い費用で人を採用するけれど、通訳的な存在の方いないために文化が全く交わらず、辛くなって辞めてしまう…というパターンが頻発するんだろうなと。

自身の専門外の領域の知識を学ぶことができる場とは

塩谷:違う世界同士のエンジニアが交わるという話と、通訳となる人材が必要というお話だと思うのですが、例えばお互いに行ったほうが良い勉強会や、行かせた方が良い会合・ミートアップといったものはありますか?

岡島:ソフトウェア系の企業もハードウェア系の企業も行かせた方が良いのは、フェイスブックグループで3000人くらいのコミュニティになっているIoT-LTがやっているイベントですね。毎月1〜2回くらいやっているのですが、「●●を作った▲▲で苦労した」という生の情報がどんどん出てくる場です。可能であれば、そこでどんどん登壇させることです。登壇させるためには、何か作らせる必要があるので、どんどん作らせて登壇させてください。例えば、もの系のエンジニアの方であればIT系のエンジニアの人との横の連携を強くしていくことです。

展示会のようなイベントで、例えばソフトウェア系のエンジニアであればハードウェア系のブースから最新製品や技術を知ることは、良い刺激になります。ハードウェア系で世界的にも規模の大きいものにメーカーフェアがあります。ソフトウェア系のエンジニアが参加することで、自分の持っている技術はIoTにおいてこんな風にはまるんだなとか、自分の技術はここが足りないんだなというところが見えてくると思います。

塩谷:IoT-LTやメーカーフェア、展示会などで、興味を持ちましょうということですね。上司の方は、部下の方にどんどん行かせましょうと。

通訳に求められるのは、専門性とコミュニケーション能力

塩谷:通訳の人に求められる経験やスキル、こういう人材が通訳の役割をすると失敗してしまう…ということはありますか?

岡島:技術でいえば、ハードウェア側もソフトウェア側もそれぞれの領域でプロフェッショナルであること。これが大前提です。その上で、コミュニケーション能力が大事だと思います。自分の考えていることをきちんと伝えられること。さらに言えば、今自分が何をやろうとしていて・何でつまっていて・どういう解決策を模索していて・相手に何をリクエストするか?を分かりやすく伝えるスキルです。これが必須ですね。

社会人であれば当たり前だと思われがちですが、意外とできている人は少ない。通訳の人材ですと、きちんと自分の意図を伝える能力を最も問われるポジションだと思います。

塩谷:一般的なプロジェクトマネージャーとは違うイメージでしょうか?

岡島:定義は様々ですが、プロジェクトマネージャーは意思決定に近いところの存在だと考えています。ここでいう通訳の人材は、御用聞き的な部分が求められます。もの側とソフトウェア側でトラブった時に、今何が起こっているのかを聞いた上で落とし所を見つける。そういう立ち回りができるポジションですね。

塩谷:成功する現場には、必ずそういう人材がいますよね。経験上。(会場を指して)皆さんもそう思われるんじゃないかなと思います。ちなみに、通訳の人がいない場合、そういった役割を外部の方にお願いすることって、できると思われますか?

岡島:可能だと思います。でも、それを成功させるためには、現場のエンジニアたちが、もの側とIT側の文化がまるで違うということを理解していることが最低要件ですね。それがない状態で通訳の人が外部から来ても、何も進まなくなってしまいます。

仮説→検証→フィードバックのサイクルを細かく回す

塩谷:そろそろもう一つのテーマであるコンセプト検証の話に移りましょうか。

岡島:サービスのアイディアがあり、コンセプトや実現制の検証があり、仕様決定・量産という流れでアイディアは事業になります。特に起こりがちなのは、技術的な検証のみをやってしまうことです。そもそもそのアイディアやコンセプトがお客様に受け入れられるのか・お客様はお金を払ってくださるのか、という部分の検証を全くしない会社様も多いです。受けいれられるか?という部分の検証は、見落とされがちですがとても重要です。

皆さんは、成功するサービス企画書にどのようなイメージを持っていますか?分厚い企画書があって3Cや4P・バリューチェーンで市場を分析し、仕様もきっちり決めている。こういう企画書は、まず失敗しますね。今はVUCAの時代といわれていて、世の中の需要が複雑で変わりやすく、明日のことは何も予想できないような状況です。そういう中で、分厚い資料を作って企画を通している期間に、すでに世界は変わってしまっているんです。

私は、色々な製品やアイディアは複数の仮説の集合体で成り立っていると考えています。例えば、展示会ブースにセンサーを付けて、そこに入る入場者数をカウントしたら、何か良いことがあるのでは?というコンセプトを思いついたとします。これも、実は複数の仮説から成り立っています。センサーをつければ入場数をカウントできるはずだ・ブースに入る人を計測することで出展者にとってプラスになるはずだ、といった具合です。その一つ一つの仮説をきちんと検証していくために、どのような試作品を使ってどんな手順でどんな実験をするのか、試作品を作り検証した結果を仮説にフィードバックしていく。このサイクルをいかに細かく回していくかが重要になってきます。

Web系の会社の方ですと、ABテストなども実施されているので、腹落ちしやすいと思います。ことハードウェアがからむと、忘れがちになってしまうんです。先ほどもの側の方は開発スパンが長く大変だと言う話をしたのですが、状況が変わっているので、ソフトウェア側でいうところのアジャイル開発的なことを進められる土台が整ってきているというのはありますよね。

機能を実装せずに、いかにテストをするか?に軸足を置く

塩谷:IoTの製品開発において、仮説をたてて早く検証するサイクルを回すために必要なことはどんなことでしょうか?

岡島:どういう方法で仮説検証をするか?ということに依存してきます。目的に応じて作るプロトタイプは変わると思っています。大きくわけると、ファンクションプロトタイプ・デザインプロトタイプ・コンテクストプロトタイプです。おそらく塩谷さんはバリバリのIT系のエンジニアの方なので、ファンクションタイプのプロトタイプをイメージされていらっしゃると思います。機能面に関してのプロタイプは、ArduinoやRaspberry Pi、mbed であったり色々なマイコンボードがあります。Web系のソフトウェアにしてもIoT系のAPIを用意しています。

ポイントは、デザインプロトタイプとコンテクストプロトタイプです。IoTは、実生活の中でどうテクノロジーを組み合わせてバリューを出していくかが大切なので、無理にソフトウェアや組込み・マイコンに閉じたものを作る必要はないんです。むしろ、コンテクストプロトタイプの一つとして人力でできることをどんどん積み上げていくことが大事だと思います。機能実装をせずに、いかにテストをするか?に軸足を置くことが大事です。ある意味、どういうツールがありますか?という質問そのものが、機能に毒されているのかもしれません。

塩谷:何も作らず、何も使わずに人手で検証できることをやってみると。

岡島:はい。それを、1週間・2週間やってみるというスタイルですね。

塩谷:では、次はもっと安価で容易なものを使ってやってみようということですね。

岡島:はい。そうすると、やらなくて良いことをどんどん切り落とせると思います。

塩谷:ありがとうございます。ぜひ、会場からもご質問を受けたいと思うのですが、いかがでしょうか?

質問者:人材の話の中で、IoTの幅が広いので、全部を自分たちでやることはできないというお話がありましたが、DMM.make AKIBAで、会社同士がコラボレーションしたという事例はありますか?

岡島:あります。DMM.make AKIBAで活動いただいている企業様は、もともと人数規模が小さい会社が多く、エンジニアの人が始めた会社もあれば、デザインの人が立ち上げた会社もあります。そのため、いきなり協働開発するというよりは、デザインの部分で人が足りていないなら手伝うよ、といった個人のスキルを貸し合うというコラボレーションが比較的多く見られています。人材に関するご相談をいただくことも多いので、今ではIoT人材を育成するための研修なども行っていますね。

司会者:岡島様、塩谷様。本日はありがとうございました。

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