次世代の働き方を、テクノロジーがアップデートする

 2019年3月5日より、東京のJPタワーホール&カンファレンス(KITTE 4F)で開催される「業務自動化カンファレンス 2019」、「 IoT World Conference 2019」、そして「金融ICTカンファレンス2019」の3つのカンファレンス。今回、アペルザでは同展の主催者である株式会社ナノオプト・メディア(以下、ナノオプト社)にそのテーマや見どころを、同社取締役 COO の大嶋氏に聞いた。

株式会社ナノオプト・メディア 取締役 COO 大嶋 康彰氏

 ナノオプト社では、毎年6月に開催する『Interop(インターロップ)』を中心に、ICT分野を中心とした様々な展示会やカンファレンスを展開している。今回開催される3展業務自動化カンファレンスIoT World Conference、金融ICTカンファレンスについてもその延長にある。大嶋氏によれば、これらは前回のInteropのなかでも特に盛り上がったテーマ群であり、それらを個別に切り出したのが今回のカンファレンスとなる。2019年は2月に名古屋、3月に東京で開催する。

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 これまで10年以上にわたって、日本のIT、ICTの最先端を見てきた大嶋氏だが、これらIoT、金融、業務自動化などのテーマには、実は共通した“ルーツ”があると言う。それは『働き方』だ。「労働人口が減っていることとテクノロジーの活用は、年々、大事なテーマとなってきている」と大嶋氏は言う。これまでナノオプト社が開催してきた様々な展示会、カンファレンスにおいても、この『働き方』という大きなテーマが、日々のテクノロジーの進化、時代や社会の変化を受けながら、常にテーマとしてアップデートされ続けている。

 スマホブームが落ち着いた頃には『BYOD(Bring your own device:私的デバイス活用)』として、震災後には『BCP(Business continuity planning:事業継続性)』として。そして、今であれば『RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)』がそれにあたる。

 今回の業務自動化カンファレンスのテーマは「RPAのその先」だ。昨今、テレビや新聞のニュースでもRPAの言葉を見かけることが増えた。決して技術先行のバズワードではなく、大手上場企業においても、定型業務の効率化・自動化にRPAを導入する、導入したという事例が出始めている。今回のカンファレンスは「全方位的」に、製造業はもちろん、業種・業界を問わず、様々な現場業務へのRPA導入の可能性を感じられるカンファレンスとなっている。特に、いわゆる(カスタマー)サポートの領域については「RPAによる効率化の余地が大きいのでは」と大嶋氏は語る。

テクノロジーを産業、社会へ“実装”できる強み

 日本におけるIT、ICTは「産業、そして社会への『実装力』の高さこそが注目されるべき」と大嶋氏は言う。「日本人は本来技術の活用は得意なはずだ。誤解を恐れず言えば、“ゼロからイチ”は、諸外国が得意な場合もある。しかし、そこからカスタマイズしてより洗練されたものにしていくこと。今言われている“バズワード”のようなテクノロジーを、社会に実装していく力があるのは日本だ。」大嶋氏は続ける。「海外から見ると、日本は要求仕様が高すぎると言われる。しかしそれは日々のオペレーション、つまり業務への実装を想定しているから。日本の都心をあれだけの数の電車が走っているのも、テクノロジーの社会への実装力の高さ、オペレーションの構築能力の高さの証明でもある。」

 今回、同時開催のIoT World Conference、そして金融ICTカンファレンスは、その『実装力』という点でも注目される。キーワードはそれぞれ『eSIM(イーシム)』そして『キャッシュレス』だ。

IoT World Conferenceの見どころ

 今回のIoT World Conferenceのテーマのひとつが「位置情報」だ。そこで大きな役割を担う技術のひとつがこの『eSIM』である。

 我々が日常的に使うスマートフォンなど携帯電話の多くは、差し込み型のSIMカードを採用している。SIMカード上に書き込まれた情報は、携帯電話端末上から編集したり書き換えたりすることはできない。そのため、海外渡航時には現地のキャリアネットワークに対応したSIMカードが必要になるし、SIMカードを変えれば基本的には電話番号が変わってしまう。

 一方、eSIMは組み込み(embedded)型である。従来のSIMカードとの大きな違いは、端末上で情報を書き換えることができるため、差し替える必要がないということだ。米Googleの『Project Fi』というeSIMを活用した通信サービスがある。これは、米国内の複数キャリア、世界各国のキャリア130以上と提携し、利用エリアに応じて、最適なキャリアをネットワークから選択し切り替えることができるというものだ。

 eSIMの登場によってメリットを享受するのは、携帯電話を利用する個人、一般消費者だけではない。物流業や製造業をはじめ、グローバルで人やモノが動く産業において、これまでブラックボックス化していた人やモノの流れが可視化されることで、情報のトラッキングが、グローバルレベルでシームレスになり、業務効率化・最適化が図られることが期待される。

金融ICTカンファレンスの見どころ

 今回の金融ICTカンファレンスのテーマは「キャッシュレス」だ。キャッシュレス化のための周辺技術としてバイオ認証やブロックチェーンなど、注目の技術は多い。しかし前述の通り、ここでもルーツにあるのは「業務自動化、労働の効率化」だ。こうした技術を社会にどう実装し、課題を解決するか。「キャッシュレス化こそ、業務自動化、労働の効率化という意味ではインパクトが大きい」と大嶋氏は語る。

 実は最近、「コンビニの24時間営業が苦しい」という話があると言う。人手不足も背景に、店舗の維持コストが見合わなくなりつつあるのだ。24時間営業するためには米Amazonが取り組む「Amazon GO」のような“無人店舗”のような仕組みが現実的に必要になりつつある。そして、そのときに“レジ打ち”を無人化するためには、キャッシュレスであることが必要条件となってくるのだ。

 キャッシュレス化によって維持コストを削減するという話は、コンビニに限った話ではない。金融機関におけるATMの維持コストがその好例だ。今後、人口が減少し、今やコンビニをはじめ様々な場所にATMが設置されているなかでは、金融機関が各社個別にATMを設置しそれらを維持し続けることには限界がきている。維持費を賄うためにATMの手数料を上げれば、余計に使われなくなってしまう。

 実は昨今話題の「自動運転」も、こうしたキャッシュレス化の流れに関係がある。先月ラスベガスで開催された「CES」で展示された自動運転車は、乗り物ではなく“空間”であった。自動運転車の車両のなかは、様々なサービスが提供され、消費活動が行われる新しい空間となっていく。当然ながらそこでの消費活動はキャッシュレスにならざるを得ない。

次に必要なのは“道”を照らす“灯り”だ

 Interopをはじめ、今回の3展のようなカンファレンスをナノオプト社が続ける理由。それは、日本のIT活用、産業、社会への実装を推し進めること、それに「どれだけ貢献できるかが使命」だからだ。大嶋氏は続ける。「これから人口も減っていく日本において、IT活用は避けられない。日本、アメリカ、中国の名目GDPの推移を見ていても、インターネットができて伸びたアメリカ、スマートフォンができて伸びた中国、日本だけは横ばいだった。」

 インターネットがすでに産業、社会へと大きく普及している日本において、「次に必要になるのは、インターネットが“道”だとすれば、“道”を照らすための“灯り”だ」と大嶋氏は言う。そして、その“灯り”となりうるのが、今回の3展の技術トレンドにも共通する、センシング技術、そしてデータの利活用だ。「今言われているIoTやAIなどの新しい技術も、言い換えればセンシングとデータだ。今後、これらの技術は社会に張り巡らされる『脳神経のような役割』を持ち、次の社会インフラを作っていくだろう。」と大嶋氏は言う。

 IoTにおける「なんでもネットにつながる」というコンセプト自体は、90年代後半からずっと話されてきたことだった。しかし、これまではその技術的な実現性とコストが見合わなかった。昔からあったアイデアが、技術革新により実現できるコストまで下がった。「まずは自社への実装、そして社会への実装。これらの技術が、どうやって次の社会を作っていくか、そのヒントにしていただけたらと思う。」大嶋氏は続ける。「3月(のカンファレンス)は個別のテーマに絞り込んでいるが、6月のInteropにも来ていただければ、より広義、より広範囲で、360度視点で見に来ていただける有意義な機会になると思う」と締めくくった。