日立、スーツ型ウェアラブルデバイスで、作業者の負荷や動作の改善点を提示するAI開発

日立製作所とドイツ人工知能研究センター(Deutsches Forschungszentrum für Künstliche Intelligenz /以下、DFKI)は、スーツ型のウェアラブルデバイスを着用した作業者の身体負荷を定量評価し、身体の部位ごとに作業動作の改善点を提示するAIを開発した。

同技術は、ウェアラブルデバイスのセンサーが計測した動作データを利用し、作業時にかかる身体への負荷をリアルタイムに認識、定量化できるとともに、模範的な作業動作との違いを身体の部位ごとにフィードバックするといった支援を可能にする。今後、日立とDFKIは、今回開発したAIを作業支援や危険行動防止に活用し、さまざまな現場における作業者の安全確保や健康管理、作業効率化に貢献していくとしている。

AIによる作業動作認識と作業者へのフィードバックによる支援の流れ

近年、熟練作業者の減少とともに、新たな労働力の確保も難しくなっており、例えば自動車工場などの製造業や保守・運送業の現場では、作業者のスキルレベルを維持することが大きな課題となっている。さらに、現場の安全性に対する意識の高まりを背景に、作業者の危険防止や健康維持のための支援の重要性が増している。

作業者を支援するためには、作業中の労働負荷を把握する必要があるが、従来の固定カメラ映像を利用した方法ではカメラに写る範囲に計測範囲が限定されるといった課題があり、死角が生じる複雑な生産現場や屋外で安定的かつ定量的に作業負荷を評価することは困難だった。

そのため日立とDFKIは、新たに、スーツ型のウェアラブルデバイスにより計測した作業動作データを利用することで、作業時の身体負荷を定量評価し、動作の改善点を提案するAIを開発。同AIは、2017年に開発した、眼鏡型デバイスとアームバンド型デバイスからのデータを定量化して「ネジ締め」などの作業内容を認識するAIを発展させたもので、日立の産業向け作業解析技術とDFKIのディープラーニング技術の融合により初めて実現。開発した技術の特長は以下の通り。

1. さまざまな作業動作を計測し、身体負荷を定量化する技術

人間の主要な動きの識別に必要な30カ所を超える関節部位の動作を、ウェアラブルデバイスのセンサーで計測し、身体の各部位の状態認識モデルを個別に機械学習させたAIにより計測データを解析。各部位の状態が組み合わさった動作の計測データをAIにより認識することで、作業で身体にかかる負荷をディープラーニングを用いた時系列データ処理技術により定量化する。

2. リアルタイムに身体負荷を推定し、適切な作業姿勢との違いを作業者に提示する技術

あらかじめ計測した模範作業の動作データと、作業者の動作データを、個別部位ごとに自動比較することで、重要な違いを生んでいる作業箇所と身体部位をAIが特定し、身体負荷への影響が大きい部位の評価のみを作業者に分かりやすく提示する。

模範作業者との動作の違いをリアルタイムに計測し比較・評価するための実験用画面
(左上)身体負荷の評価の時間推移 (右上)課題の見つかった動作の動画
(左下)各身体部位の状態推移 (右下)各身体部位の動作に対する評価

同技術を用いて重量物の持ち上げ動作について実験した結果、作業の身体負荷をリアルタイムに定量評価し、非模範的な動作に対しては腰や膝の動作が模範動作と大きく異なるといった情報の提示が可能となった。

同技術は、身体の動作を測定し評価するAIとして、将来的にはスポーツ分野・エンターテインメント分野などへの応用も検討していき、さらに、これまでに開発した作業認識AIなどとも連携し、作業現場の生産性向上に貢献し、より効率的で働きやすい作業現場の実現をめざすとしている。

同技術は、4月1日~5日にドイツ・ハノーバーで開催される「HANNOVER MESSE 2019」(国際産業技術見本市)のDFKIブースで展示予定。

出典:日立製作所「作業者の身体負荷をスーツ型のウェアラブルデバイスにより定量評価し、作業動作の改善点を提示するAIを開発」