産業用コンピュータ・コントローラ、IoT・M2Mで大きな役割

産業用コンピュータ・コントローラは、製造業を中心に幅広い分野で使用され重要な役割を果たしている。特に、IoTやM2Mに代表される新しいニーズが高まる中で、制御と情報を制御する機能を求められている。

市場規模も国内で約1500億円、グローバルではその約10倍あると言われる大きな市場への期待が高まっている。

生産設備の中核を担っている

製造から非製造まで広い需要

産業用コンピュータ・コントローラは、製造、非製造を問わず幅広い分野で使用されている。製造分野では半導体・液晶製造装置、計測・検査装置、工作機械などのディスクリートの生産設備をはじめ、鉄鋼、石油、化学、紙、食品飲料といったプラント設備などがある。

非製造分野では、放送設備、医療機器・設備、鉄道・交通・空港などの管制システム、上下水道設備・ごみ処理設備、ダム監視などの公共システムなど多岐にわたる。いずれも長期間安定した制御が求められ、24時間連続した稼働の用途も多い。

市場規模は、調査会社の冨士経済の調べによると、2018年の産業用コンピュータは、国内で約326億円、グローバルで約3558億円とみている。コントローラとして代表的なPLC(プログラマブル・コントローラ)は、国内が約1246億円、グローバルで約1兆4742億円となっており、産業用コンピュータ・コントローラを合わせると、国内で約1572億円、グローバルでは約1兆8300億円と非常に大きな市場を形成している。

これに、最近はプログラマブル表示器もパネルコントローラ的な機能を内蔵しており利用が増えている。プログラマブル表示器の市場も富士経済の調べでは、18年の国内が約421億円、グローバルで約2200億円とみている。

 

産業用コンピュータ・コントローラの大きな需要市場の一つである半導体・液晶製造装置の生産は2018年前半までは好調を維持し、大きく牽引してきた。日本半導体製造装置協会(SEAJ)の統計では、2017年度が2兆5352億円であったが、18年度は2兆2696億円の需要を予測しているが、後半の需要が予測以上に減少していることから、予測まで達していたか微妙の状況だ。

19年度は0.5%増の2兆2810億円の見込みであるが、後半の立ち上がり状況によって厳しい局面も予想される。

ただ、IoTの利活用した情報化社会の進展で半導体を多数使用する情報端末、カメラ、自動車の自動運転、ビッグデータ処理に伴うデーターセンター建設需要などで半導体需要が増大するのは確実であることから、この調整がどのくらいで終息するかに関心が集まっている。

 

半導体・液晶製造装置と同様に大きな需要分野である工作機械の出荷も18年秋頃から落ち込みが続いている。日本工作機械工業会(JMTBA)の17年の受注額は前年比131.6%の1兆6455億円で、18年も1兆8158億円と2年連続で過去最高更新をした。18年前半の受注が大きく伸びたことで、18年として2桁の伸びを確保した形であるが、18年秋頃からは前年同月を下回る状況が出始め、今年に入ると2桁減となる月も見られるなど、先行きへの不安が高まっている。

しかし、一方で人手不足や働きかた改革なども加わり、自動化・省力化ニーズは国内を中心に高く、設備投資意欲が継続している。ロボットなどの活用への取り組みが進んでいるが、SI(システムインテグレータ)の不足などもあり導入が遅れ気味となっている。

非製造分野では、放送設備向けや通信分野での需要が伸びている。中でも地上デジタル放送が開始10年を迎えたことから設備の入れ替え時期になっていることや、4K・8K放送に対応した放送機材向けの需要も加わり、産業用コンピュータ・コントローラの販売が増えている。

長期間安定稼働が必須

産業用コンピュータ・コントローラは、工場やインフラ設備などに代表される24時間連続稼働や、停止が許されない高信頼な制御が求められる用途で数多く使用されてきたが、最近はさらに用途を広げ、インターネットなどをつないだ環境下で使用されるケースの増加とともに、果たす役割が変化し、重要性が増してきている。インダストリー4.0などに代表されるIoTへの対応によって、あらゆるものをつなげることによる情報量は飛躍的に増大し、これを処理するコンピュータシステムの負荷も高まる。

産業用コンピュータ・コントローラも、現場での制御や情報処理する役割に加え、情報端末やゲートウェイとしての役割、さらにはクラウド領域などもカバーした役割も求められてきている。用途に応じた産業用コンピュータが使い分けられることが多くなるが、基本的に求められる機能は高い環境特性と長期間の安定した供給だ。

特に製造業や社会インフラ用途で使用される産業用コンピュータには、冗長性とリアルタイム性が求められていることから、末端の各種情報を直接クラウドシステムで処理する方法では、タイムラグによる遅延リスクが懸念される。

 

そこで、センサーなどの下位層に近いところにフォグコンピュータやエッジコンピュータを端末として設置して一定の情報処理を行うことで、上位システムへの情報遅延防止と負荷の軽減を図ろうとしている。同時にインターネットなどとつながることで、外部との接続機会が増加し、制御セキュリティへの対応も求められてくる。

工場や社会インフラシステムに対するハッカー攻撃も年々増加しており、制御セキュリティ対策はますます重要性を高めている。

IoTの進展する中で、産業用コンピュータの処理する情報量は増加しており、ハードに求められる機能もますますレベルが高くなっている。

 

産業用コンピュータ/コントローラは、汎用パソコンとは異なり、長期間の安定した供給体制や、連続稼働に耐える信頼性の高い設計などが求められる。汎用パソコンのように数年ごとに買い替えするのが当たり前のような使い方に対し、5年、10年と同じ機種をトラブルなく使い続けることが多く、求められる要求レベルも高くなる。

工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることが前提のため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。

例えば温度特性もマイナス25℃~プラス60℃ぐらいの範囲に耐えられる設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。

「つながる」取り組みを重視

また、制御機能も、生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレー)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、一つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。

このような場合、最先端のCPUや大容量メモリなどハイスペックな製品が要求される。インターフェースについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。

拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。

 

CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理と省エネを両立。

産業用コンピュータで最も重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリ機能、ハードウエア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。

こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。

 

PLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分、例えば収集したデータの解析・分析結果の表示などはWindows
OSで処理を行うなどだ。

従来、パソコンと専用機器などを組み合わせて対応してきた装置制御や情報処理機能を1台のPCに集約できることから、システム構築コストと装置の設置スぺースの削減に貢献する。

ハードウエアだけでなく、ソフトウエアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinux OSの採用が多くなっている。さらに、Windows OSの頻繁なバージョンアップは、産業用コンピュータなどの生産工程で稼働している用途では、そのたびに状態の確認業務が発生している。そこでこのOS更新の頻度が少ない産業コンピュータも販売されている。確認作業の手間を減らせることになることから、人手不足のなかの対応として注目される。

セキュリティ対策も重要に

産業用コンピュータ・コントローラを取り巻く環境で最近重要性が高まっているのがセキュリティ対策で、外部からのコンピュータへの侵入を防ぐのが目的だ。セキュリティ対策はハードとソフトの両面で必要になっている。ハード面では誤操作防止だけでなく、意図的なセキュリティ対策として、キーロックの装備、電源スイッチやUSBポートのネジ式固定カバーの設置、さらには、盗難防止用のセキュリティロックスロットを搭載することで、物理的な対応を行っている。

ソフト面では、ホワイトリスト型セキュリティソフトウェアの搭載などが行われている。産業用コンピュータは今までは一般的に、外部と分離されていることが多かった工場や公共設備での用途が多かったが、インターネットなどを経由した制御や管理の増加によって従来のような隔離された状況とは言えなくなっているのが現状だ。

事務所などで使うコンピュータではセキュリティ対策はセキュリティソフトの搭載や認証システムなどで対策を行なっていることが多いが、工場や公共設備では対応策は弱く、被害の甚大化の危険性が指摘されている。

 

最近の産業用コンピュータ・コントローラは、制御セキュリティ対策を施した製品開発を進めており、いわゆる「ホワイトリスト制御」を行なっている。マルウェア情報を検知する。「ブラックリスト制御」に対し、動作して良いと判断した「良いもの(ホワイト)リスト」のみを決め、これ以外には動かないように制限を設けるものである。産業用コンピュータ/コントローラのセキュリティ認証制度もできている。

IoT化が進む中で、産業用コンピュータを高速携帯通信LTEに対応させて、現場とクラウドシステム間のゲートウェイの役割を果たすことで、データの収集、蓄積、分析を行い機械や設備の予知保全やリモートメンテナンスに役立てようとする動きも出ている。

通信を介したつながる機器が増える中で、オープンなプラットフォームでつながる取り組みも進展している。今までベンダーごとに独自の規格提案をしていることが多かったが、IoT・M2M化進む中でその弊害も多く、ユーザーからの戸惑いの声も多かった。

 

FAとITの協調を推進するオープンなエッジコンピューティング領域のソフトウェアプラットフォームの普及団体「Edgecrossコンソーシアム」発足や、OPC UAのTSNへの対応でその動きが一挙に加速し始めている。既存の設備の中には通信機能を備えていない機械・設備や生産ラインがまだ非常に多い。

こうしたところで既存の資産を生かしながらIoT・M2M化などへの対応を容易に行える取り組みが必要だ。産業用コンピュータ・コントローラの用途はまだまだ広く大きい。