――インダストリー4.0が話題をさらっている。
ドイツ政府がIoTで製造業を高度化して国内の中小企業の競争力を上げ、国民の雇用を確保するために取り組んでいるのがインダストリー4.0だ。
ただし、インダストリー4.0を「ドイツの製造業の話」と狭く捉えるべきではない。インダストリー4.0は、文字通り「第四次産業革命」の嚆矢(こうし)だ。ITとIoTによって、製造業とサービス業の垣根はどんどん低くなり、またモノの作り方も変わっていく。すべての企業が、従来とは違う種類の競争環境に置かれる時代が来ている。
――どう捉えれば良いのか?
国、業界、企業、それぞれの視点から捉えることが大切だ。
国の視点でいえば、ドイツ製造業は、労働人口の高齢化と減少、労働コストの高さ、省エネといった課題を抱えている。一方、アメリカは労働者は若く、低コストで人材を確保できる。エネルギー資源も豊富だ。
したがって、ドイツ政府が国の未来のためにインダストリー4.0に力を入れるのは必然といえる。
――業界の視点とは?
インダストリー4.0を「業界標準をめぐる覇権争い」とみるのは本質的ではない。インダストリー4.0の影響範囲はそれよりずっと広いからだ。
インダストリー4.0を推進するワーキンググループ(WG)は、自発的で緩やかな機構で、その進捗も各WGにまかせられている。その実現は2025年頃とも言われ、かなり先だ。また現存する標準規格が利用可能であればなるべくそちらを使うという方針でもあり、あらたな規格を作って囲い込むという発想はない。
一方、IICはGE主導で予知保全のプラットフォーム「Predix」を公開するなど動きは早いが、予知保全がインダストリー4.0のすべてでもない。業界標準をめぐる争いは、過去も現在も起きているが、それはインダストリー4.0とは切り離して考えたほうが現実的だ。
IoTの成功例として「ハーレーダビッドソン」が良い例だ。ユーザーが自分好みのハーレーを作れるサービスを構築し、「マスカスタマイゼーション」を実現して成功している。
HPで自分の好みのバイクを作って注文すると、即座に工場へ情報が送られる。すると、部品と作業者、機械、工具など、完成に必要なものすべてが情報と紐付き、さらに作業工程や手順、生産計画が作られる。作業員は複雑な注文や難しい作業工程に対しても、コンピュータのサポートを受けながら1台ずつ素早くバイクを組み立てていくことができる。
自分好みのバイクを作りたいというニーズに応え、とても好評だ。ハーレーの新しいビジネスモデルとしても利益を出し、注目されている。
――そこでのSAPの役割は?
受注から生産計画、製造実行、機器、作業者、保全まで、当社のパッケージをフル活用してリアルタイムにプロセス連携できる仕組みを整えた。部門を超えた社内連携、ディーラーや物流など社外パートナーとの連携、製造現場をすべてデジタルで再現する“デジタルツイン””を提供した。
ハーレーはこの改革により、見込み量産方式で1台作るのに21日かかっていたのが1台あたり6時間で完成できるようになった。しかも受注生産方式で大きなコストダウン効果と、カスタムという付加価値を生み出すことができた。
――これからについて。
製造業においてIoTと言うとまずThingsつまりモノとつなぐこと、具体的にはセンサやネットワークに目が行きがちだが、本来重要なのは、それを使っていかに利益を出すかだ。
利益を出すためにはIoP(インターネットオブプロセス)、つまり他の業務プロセス、さらには社外(顧客やサプライヤ)とも連携して「価値を生み出す仕組み」を構築することが必要。これは当社の得意とするところだ。企業活動のすべてに対してデジタルツインを構築し、利益を上げる仕組みづくりをサポートしていきたい。
出典:オートメーション新聞
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