ET/IoT Technology Award 2018 受賞者インタビュー
シリーズ第7回:アルプス電気株式会社 / 株式会社NTTデータ経営研究所
いよいよ2018年11月14日より、最先端のエッジテクノロジーを集めた展示会、ET/IoT Technology 2018 が開幕する。それに先立って10月31日、品川のプレス発表会会場では、ET/IoT Technology Award 2018 の受賞発表が行われていた。ET/IoT Technology Award は、組込み業界の発展と国内産業の競争力向上に寄与する、優れた組込み技術や製品、ソリューション、サービス、IoT技術を発掘し、その成果と功績を国内外に広く顕彰する賞として、今年で8回目となる。今年は前年の49件を上回る61件の応募が集まった。
今年は5つの賞に全7社が選出された。Embedded Technology 優秀賞(1社)、IoT Technology 優秀賞(2社)、JASA(主催者)特別賞(1社)、今年のコンセプトである<ET✕ET>に合わせて新設されたEdge Technology 優秀賞(1社)、そしてもうひとつのフォーカス領域である“スタートアップ”を選出するスタートアップ優秀賞(2社)。表彰式は会期2日目、11月15日を予定している。今回、アペルザではアワード受賞企業へ独占取材を実施。全7回に分けて、受賞企業各社の受賞製品、技術を紹介する。
【第1回:日本電気株式会社】 【第2回:富士通株式会社】 【第3回:LeapMind株式会社】 【第4回:株式会社ロビット】 【第5回:株式会社シード】 【第6回:STARWING Technology Co.】 【第7回:アルプス電気株式会社/株式会社NTTデータ経営研究所】
今回、IoT Technology 優秀賞を受賞したのが『局所集中型低消費電力無線通信技術』だ。1-2mほどであれば電力消費がゼロ、毎秒数百ものセンサのデータが収集可能という同技術。開発を進めるアルプス電気株式会社の桝田屋秀樹氏、そして株式会社NTTデータ経営研究所の竹内敬治氏に話を聞いた。
― この度は受賞おめでとうございます。『局所集中型低消費電力無線通信技術』とは、どのようなものなのでしょうか?
現在開発を進めている局所集中型低消費電力無線通信技術は、既存の“低消費”と言われているものと比較しても、消費電力が1/1000以下となるものです。無線技術において消費電力量と通信距離はトレードオフの関係にあります。そのため同製品は“局所集中型“の言葉にある通り、近距離に特化しています。1〜2mほどであれば消費電力はゼロであり、約5〜10mほどの距離まででの利用を想定しています。
本機ではバックスキャッターという技術を応用して、親機と子機を通信させています。RFIDで使っている技術と同じような仕組みです。親機からの電波が子機に到達します。子機側では電波を受信するアンテナで、反射の仕方を変えることで電波に変調をかけます。その変調した電波を親機が読み取ることで情報が伝達されるというものです。
BLE(Bluetooth Low Energy)の普及によってIoTのハードルは大きく下がり、これから様々な業界・分野で、IoTの導入がより進み、センサの数もどんどん増えていきます。本機はそうした大量のセンサからのデータを集めるという点でも優れた特長を持っています。それがタイムスロットです。
各子機に対して予めタイムスロット、つまり“返事をする順番”を割り振っておきます。子機は自分のタイムスロットで親機に対して順番に返事を返していきますので、親機は一回の通信ですべての子機からのデータを集めることができるのです。また、この予め決められたタイムスロットが子機ごとに一意となりますので、IDの代わりにもなるのです。
これを応用して、センサを10個ずつ20ミリ秒ごとにタイムスロットを分けていけば、1秒で50セット、つまり500個のセンサと通信することもできるのです。尚、設計上の最高速は30個/10ミリ秒まで可能ですが、実用的なスピードで考え、30個/20ミリ秒で設定しています。
Bluetoothは、通信速度は速いですが、設置数が増えると通信が衝突、輻輳してしまい遅くなってしまいます。本機では、そもそもタイムスロットを使うことでデータが輻輳せず、900MHz帯を使用することで、他の通信との干渉リスクも下げることができています。
更に本機では、こうした特長に加えてセキュリティの対策もしています。せっかくのIoTも、入口のセキュリティがされていなければ、盗聴、なりすまし、なんでもできてしまい危険です。本機では1往復の通信で、親機の認証、子機の認証、暗号化をすべて可能にしています。従来の通信手段では、2往復程度かかることが一般的ですが、それでは先程のタイムスロットの考え方が活きません。高いデータレートを実現しながら、且つセキュリティを維持することは、BLEやその他の通信手段では実は難しいことなのです。
― 製品開発のきっかけを教えてください。
きっかけは、2010年5月のエネルギーハーベスティングコンソーシアム(以下、EHC)の設立です。EHCでは、周りの環境から微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)して、電力に変換するエネルギーハーベスティング技術(環境発電技術)の普及、ビジネスとしての早期実現を目指しています。
エネルギーハーベスティング技術の普及においては、無線技術との関係が重要になると考えています。無線の消費電力を下げることができれば、エネルギーハーベスティング技術を活用して、いろいろな場所でセンサが使えるようになるからです。
開発が大きく前進するきっかけになったのは、総務省におけるICT重点技術の研究開発プロジェクトのひとつとして『スマートなインフラ維持管理に向けたICT基盤の確立』が始まったことでした。橋には、応力が集中して壊れやすい場所があります。我々のエネルギーハーベスティング技術と無線技術の組み合わせが、橋梁の検査などに活用できる可能性があると考えました。橋梁に複数のセンサ(子機)を設置して、親機を乗せた車両が橋梁を横断しながら、子機からのデータを集め、検査を完了することができるのです。定期点検以前から予兆がわかるということに加え、自治体のコスト削減に繋がるなどの利点があります。
― 今後製品としてはどのような展開が考えられそうでしょうか。
様々な場面での活用が考えられますが、本機は通信と電源の両方の配線が不要となるので、配線をするための物理的な制約がある場所や、電源確保が難しい場面での活躍が期待されます。
例えば、似たようなアプローチとして、防火シャッターの障害物感知センサがあります。シャッターには安全基準があり、シャッターの下に人がいて挟まれたりしないよう、それを検知してシャッターを止めたり、逆回転させたりする仕組みが求められています。エネルギーハーベスティング技術のひとつに、“押すと発電”されるものがあります。その技術を応用したセンサをシャッターの接地面に装着することで、障害物の検知時に(押されることで)発電することができます。そこで発電された電力でセンサのデータをモーター側に飛ばし、逆回転させるというイメージです。
通常のセンサでは、外部から電源を供給する必要があり、多くの場合がバッテリーですので、電池切れのリスクが常に存在しています。こうした技術を活用することで、センサのための電源供給や配線が不要になるのです。実はこれは建物内のセンサには共通した課題です。現在の建築基準法では、建物を守ることはできますが、建物内の設備を守るものではありません。そのため地震によって配線が切れるなどすることで、センサ等への電源供給や通信が止まってしまうリスクがあるのです。
― ご来場者へ一言お願いいたします。
当日会場のブースでは実機の展示もあります。数年以内にサンプルの販売開始を検討していますが、本機の開発にあたっては、皆様と一緒に本機の用途を見つけていければと考えています。「こんな使い方ができないか」「このような場面でも利用できるか」など是非お気軽にご相談ください。