産業用コンピュータが、ものづくり現場において生産ラインのリアルタイム制御から予防保全、品質向上などさまざまな工程で活用が進んでいる。いずれも24時間365日の停止が許されない稼働が求められる用途が多く、過酷な使用環境に耐えられる信頼性が最も求められる。
IoTやM2Mの中で今後の果たす役割は大きく、今後の市場拡大への期待も高い。
連続稼働・長時間安定供給が評価
産業用コンピュータの用途は非常に広がっている。製造業から社会インフラなどの非製造分野まで幅広い領域で使用されている。
調査会社の冨士経済の調べによると、2018年の産業用コンピュータの市場規模は国内で約326億円、グローバルで約3558億円となっている。これに、最近はプログラマブル表示器もパネルコンピュータとしての機能を内蔵しており利用が増えている。プログラマブル表示器の18年の市場規模は富士経済の調べで、国内が約421億円、グローバルで約2200億円と、国内では産業用コンピュータより大きい。
米中の貿易摩擦が世界経済に大きな影響を与えてきたが、今年に入ってからはさらに新型コロナウイルスが大きな問題になっている。現状、収束の時期が見通せず影響が予測できないが、製造業にも大きなダメージを与えるのは確実だ。
人手不足や働きかた改革、人件費上昇などを背景に、自動化・省力化ニーズは国内外でますます高まっており、設備投資意欲が高水準を継続してしている。ロボット活用への取り組みも進んでいるが、SI(システムインテグレータ)の不足に加え、米中、コロナなどの問題で景気の先行き不透明感も強い。
非製造分野でも放送設備向けや通信分野での投資が継続しており、産業用コンピュータの需要に追い風になっている。
産業用コンピュータは、工場やインフラ設備などに代表される24時間連続稼働や、停止が許されない高信頼な制御が求められる用途で数多く使用されてきたが、最近はさらに用途を広げ、インターネットなどをつないだ環境下で使用される用途での役割が増してきている。インダストリー4.0などに代表されるIoTへの対応によって、あらゆるものをつなげることによる情報量は飛躍的に増大し、これを処理するコンピュータシステムの負荷も高まる。
産業用コンピュータの役割は、現場での制御や情報処理に加え、情報端末やゲートウェイ、さらにはクラウド領域などでも求められてきている。用途に応じた産業用コンピュータが使い分けられることが多くなるが、基本的に求められる機能は高い環境特性と長期間の安定した供給だ。特に製造業や社会インフラ用途で使用される産業用コンピュータには、冗長性とリアルタイム性が求められていることから、末端の各種情報を直接クラウドシステムで処理する方法では、タイムラグによる遅延リスクが懸念される。
そこで、センサーなどの下位層に近いところにフォグコンピュータやエッジコンピュータを端末として設置して一定の情報処理を行うことで、上位システムへの情報遅延防止と負荷の軽減を図ろうとしている。同時にインターネットなどとつながることで、外部との接続機会が増加し、制御セキュリティへの対応も求められてくる。工場や社会インフラシステムに対するハッカー攻撃も年々増加しており、制御セキュリティ対策はますます重要性を高めている。
IoTの進展する中で、産業用コンピュータの処理する情報量は増加しており、ハードに求められる機能もますますレベルが高くなっている。
工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることが前提のため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。例えば温度特性もマイナス25℃〜プラス60℃ぐらいの範囲に耐えられる設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。また、制御機能も生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレー)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、一つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。
このような場合、最先端のCPUや大容量メモリなどハイスペックな製品が要求される。インターフェースについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。
拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。
セキュリティー対策のニーズ高まる
CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理と省エネを両立。
産業用コンピュータで最も重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリ機能、ハードウエア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。
こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。
PLC(プログラマブル・コントローラ)では対応できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分、例えば収集したデータの解析・分析結果の表示などはWindowsOSで処理を行うなどだ。
従来、パソコンと専用機器などを組み合わせて対応してきた装置制御や情報処理機能を1台のPCに集約できることから、システム構築コストと装置の設置スぺースの削減に貢献する。
ハードウエアだけでなく、ソフトウエアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinuxOSの採用が多くなっている。さらに、WindowsOSの頻繁なバージョンアップは、産業用コンピュータなどの生産工程で稼働している用途では、そのたびに状態の確認業務が発生している。そこでこのOS更新の頻度が少ない産業コンピュータも販売されている。確認作業の手間を減らせることになることから、人手不足のなかの対応として注目される。
産業用コンピュータの用途が拡大する中で、最近対応が求められているのがセキュリティ対策だ。ハード面では誤操作防止だけでなく、意図的なセキュリティ対策として、キーロックの装備、電源スイッチやUSBポートのネジ式固定カバーの設置、さらには、盗難防止用のセキュリティロックスロットを搭載することで、物理的な対応を行っている。ソフト面では、ホワイトリスト型セキュリティソフトウェアの搭載などが行われている。
IoT化が進む中で、産業用コンピュータを高速携帯通信LTEに対応させて、現場とクラウドシステム間のゲートウェイの役割を果たすことで、データの収集、蓄積、分析を行い機械や設備の予知保全やリモートメンテナンスに役立てようとする動きも出ている。