JEMA「2019年度版 製造業2030」生産とビジネスを柔軟に組み合わせて価値を最大化

日本電機工業会(JEMA)は、IoTによる製造業の変革に関する提言書「2019年度版 製造業2030」をまとめ、ホワイトペーパーとして発行した。

製造業のさまざまなバリューチェーンをフレキシブルに構築できるモデルを考案し、新型コロナウィルスで分断されたサプライチェーンをより柔軟につないで事業継続と価値向上を実現できる製造業の未来の姿について言及している。その内容を紹介する。

具体化されてきたFBM

「製造業2030」は、日本の製造業の将来に対する提言書として、JEMAスマートマニュファクチャリング特別委員会が中心となってまとめられ、公開されているもの。2015年度にはじまり、毎年、内容が更新され、今回が5回めとなる。

2030年頃の製造業の姿は、市場環境に合わせて製造プロセスを組み替え、フレキシブルにビジネス環境を構築する仕組みになると予測。それを同書では「FBM(フレキシブル・ビジネス・アンド・マニュファクチャリング)」と表現し、政府の掲げる産業政策目標であるソサイエティ5.0やコネクテッドインダストリーズを実現する手段と位置づけている。

それまで製造業の未来の姿は生産方式や技術に着目されることが多かったが、同書ではビジネスをモデルに取り込み、柔軟なビジネスと生産を可能にする方法としている点が特長となっている。

▼FBM検討の進化


2030年の製造業の姿

同書では2030年以降の製造業の姿について、

  • あらゆるモノがインターネットにつながり、さまざまなビジネスプロセスが、今以上により密に結合されている
  • 各企業は、集団利益のために行動を調整し、ステークホルダに価値を提供していく
  • さまざまなバリューチェーンで、求められる価値・提供される価値が、組織の枠を超えて、リアルタイムに授受されている
  • これらの価値が、極めて短時間で判断・検証され、効率よく実行に移され、集団利益の最大化が図られる
  • 集団利益の追求は、ビジネスモデルや製造機能の組み合わせさえも、フレキシブルに変化させる

としている。

つまりは、2030年の製造業は柔軟な組み合わせでビジネスを構築することによって各企業が利益を最大化できる時代になるということ。IoTの普及によって機器同士、企業同士がビジネスでも営業や生産活動でも密接に絡むようになり、その集団とそれぞれの企業が最大の利益を得るために価値はリアルタイムに授受されるようになる。

価値を生むための活動もスピード感をもって検証・実行され、その活動はそれまでのように決まりきって硬直化したものではなく、その時々でビジネスモデルや受発注先やプロセスを柔軟に変化するようになる。

JEMAはこれを将来の姿とし、それを実現するための仕組みとして、「ニーズに応じて柔軟かつ迅速に、バリューチェーンの構築・再構築を可能とするアーキテクチャ FBM」をまとめ、その実現に向けて動いている。

FBMとは?

FBMは、事業主の依頼にもとづき、コーディネータと呼ばれるバリューチェーンの設計者が、ツールを使って最適な業務や工程を提供する事業者を選定し、最適なバリューチェーン「FBMモデル」を設計する。
 
事業主はそれを使うことで価値を最大化でき、FBMにもとづいたサービスを提供する事業者もFBMの仕組みに乗っておくことで案件が発生する。従来は、古くからの商慣習や商流によって固定化していたバリューチェーンが、リアルタイムでその都度最適な組み合わせを構築できるようになって柔軟さが増し、価値と利益の向上につながる。
 
FBMはシンプルなモデルで、特別な知識やツールが必要なく、パソコン等で簡単に目的ごとに最適なFBMモデルを設計できるよう考えられている。さまざまな生産プロセスやビジネスのFBMモデルを設計し、分かりやすい状態で可視化。それをもとに関係者で議論ができるようになっている。

特定のFBMモデルに限らず、制御盤の最適設計や製造ラインの生産最適化、企業連携の収益最適化など、製造業関連のあらゆる事項に適用できるとしている。

▼FBMのイメージ

FBMのステークホルダーとFBMモデルを構成する要素

FBMモデルの構築に関係してくるプレイヤー(ステークホルダー)は、依頼主であり、FBMの仕組みを使って最適なFBMモデルの構築を発注する「事業主」と、事業主から依頼されてFBMのツールを使って最適なFBMモデル設計する「コーディネータ」。

ある工程や業務を担当し、FBMサービスとして提供する企業や自社部門など「FBMサービス提供者」、FBMの仕組みを整備して管理を行う「FBMツール運営者」、FBMで導き出されたFBMモデルに対して生産管理やスケジュール等を行う「外部利用者」がいる。

事業主がFBMモデルの目的や評価指標とその基準を示し、コーディネータがFBMサービス提供者を組み合わせて、基準をクリアできるFBMモデルを作り上げて提供する。

FBMモデルは、構成要素が球体と矢印で表現され、誰でもひと目で分かりやすいものとなっている。FBMサービスは球体で表され、工程や業務が進行手順どおりに並べられるように示される。価値の連鎖、どのFBMサービスにつながる、影響を及ぼすかのバリューリンクが矢印で表される。ほか基盤、バリュー要求、バリュー提供、ビューがある。

▼FBMモデルのデザインの流れ

標準化されたプロセス情報をモデル化したFBMサービス

FBMサービスは、価値を生み出す業務や工程(プロセス)の情報をモデル化したもののことを指す。情報とは、社名や工場名、工程名といった識別名称と、業種やHPのURLといった属性情報、さらに、コストや納期といったより最適なプロセスを柔軟に作るために必要な情報、評価指標値のことを指し、コーディネータはFBMツールを使ってこれらの情報をもとに検索選択して組み合わせてFBMモデルを設計していく。

FBMサービスが持つ属性情報は、FBMサービスとその提供者を分類し、評価するための情報になる。コーディネータがFBMサービスの候補を選ぶ際や、完成したFBMモデルを検証する場面で使われる。例えば属性情報にはFBMツール側が持っている識別ID、FBMサービス提供者の企業情報などカタログ情報などと、FBMサービス提供社が持ってFBMツールに回答する時に使う生産能力や評価指標値がある。

FBMモデルは、FBMサービスの組み合わせで成り立ち、その評価はFBMサービスのそれぞれの評価指標を合算して集計される。FBMモデルの設計は、事業主がはじめに評価指標値などの目安を出し、コーディネータがPDCAを回して作り上げる、その設計手順は、1アウトラインを描く、2リポジトリからFBMサービスを選ぶ、3候補の評価順序を決める、4シミュレーション評価をし、ビューに表示される。これを繰り返してFBMサービスの最適な組み合わせを探していく。

▼FBMモデルの構成要素

FBMの今後の課題

同書とFBMの検討は今後も行われていく。そのなかで今後の課題として上がっているのが、属性情報と評価指標の拡充。多様なバリューチェーンに対して効果を上げるには、評価指標と属性情報の定義が重要となる。現状から多くの項目の追加を検討しており、OPC UA情報モデルのサブタイプ拡張などの適用を検討しているという。

FBMはJEMAが検討しているものだが、近しいものや関連しそうな国際標準が多数あり、そことのすり合わせが重要となる。今後その連携なども検討材料となっている。

またFBMを実現するための仕組みづくりにも着手する。FBMを実際に設計し作り上げるためのツールとその環境整備は大切。FBMツールのデモシステムの開発と立ち上げ、FBMサービスの登録を推進し、トライアルができるようにしたいとしている。

出典:日本電機工業会「IoTによる製造業の変革に関する提言書「2019年度版 製造業2030」の公表について」