ET/IoT Technology 2018 スペシャルトークセッション
『3人の“技術者”が語る、人と技術の向き合い方』
2018年11月14日より、パシフィコ横浜で開催された「ET/IoT Technology 2018」、最先端のエッジテクノロジーを集めた展示会として注目を集めた。初日となる14日、会場内のメインステージにおいて、『3人の“技術者”が語る、人と技術の向き合い方』と題し、3人のエンジニアによるスペシャルトークセッションが催された。ステージには、ウェアラブルアームロボット「METCALF(メカフ)」を手がけるロボティクスファッションクリエイター/メカエンジニアであるきゅんくん、株式会社Cerevo 代表取締役であり、きゅんくんの“師匠”でもある青木和律氏、そしてモデレーターには、アペルザCTOで、IoTナビの技術ディレクターでもある塩谷の3人が登壇した。
異なる場所で活躍する3人の“技術者“が、「技術者としての成長」、「変わりゆく技術との向き合い方」について語った。きゅんくんの師匠 青木氏との出会い、“技術者としてのきゅんくん”の成長秘話にも迫る。
●シリーズ第1回 『3人の“技術者”が語る、人と技術の向き合い方』
●シリーズ第2回 『IoT技術を活用した新規事業立ち上げにおける先端人材とコンセプト検証の重要性』
髪の毛の色が奇抜な人はだいたい友達
塩谷:きゅんくんは、メカフを作るかたわらで、技術力を高めたいってことで修行をしてるんですよね。
きゅんくん:そうですね、修行してます。
塩谷:なぜ修行を始めたくなったのか、師匠である青木さんとの出会いはどんな感じだったのか、ぜひ教えてください。
きゅんくん:作りたいという気持ちが湧き上がってメカフシリーズを作っていたんですけど、最初は作っているうちに、ここの設計間違ってる、しばらく経ったらここ壊れているということがあり、次はこんな風に改善してみようと考えながら作っていました。でもある時、壊れなくなったし、設計が間違っているわけではない。でも、そこから先のステップに進めないというタイミングがきたんです。
その時ちょうどDMM.make AKIBAで青木さんと出会いました。機械のことをやりたいと話していたら、チームルームにおいでよと。ここがスタートですね。
塩谷:それはいつ頃の話ですか?
きゅんくん:2年くらい前ですかね。
塩谷:その頃のきゅんくんは、青木さんにとってどんな印象でしたか?
青木和律氏(以下、青木):頑張っているけれど、何作ってるかよくわからない、という感じ。サーボがよく壊れるとか、そういう相談が最初でした。当時、何かの取材できゅんくんが話していた内容を聞いた時に、本当にものを作ることが好きで、真面目ということがわかったんです。言い方は悪いですけど、女性でものを作るひとは目立つんですが、それをネタにやっているわけではないんだなと。真剣にものづくりをしているんだと。
塩谷:真剣にものづくりをしていることが伝わったんですね。きゅんくんは、どんな想いで青木さんに師匠になってくださいと?
きゅんくん:いや、最初は髪の毛の色が同じということで盛り上がって。当時、私は紫だったんですけど、そこから色が抜けてピンクっぽくなってたんです。その時青木さんの髪色は白で、紫から色が抜けて白になってしまったということを聞いて、同じですねって。それで仲良くなったんです。髪の毛の色が奇抜な人はだいたい友達…みたいな(笑)。
青木:デザイナーの根津さん、彼の髪の毛は赤ですしね。
何となく動いた!から、なぜ動くのか?を理解できるように
塩谷:新卒の方が先輩から何かを学ぶって、ITでもメカでも電機でも同じなんじゃないかなと思うのですが、きゅんくんは具体的にこの2年間でどんなことを学ばれたんですか?
きゅんくん:青木さんからは、もっとデータシートを読めと言われました。そこから、この数字がこうだから、ここはこうしたほうがいいとか、そういうことを考えるようになりました。原典にあたって、なるべくテキストを読んで、自分で考えて設計することを学びました。
塩谷:業界問わず、若いエンジニアのたどる過程とだいたい同じですよね。青木さんは、どのようにきゅんくんに接していたんですか?
青木:一番最初は、私が受けてきた仕事を一緒にやるということが多かったですね。プロトタイプだったから、どちらかと言うと楽な仕事。
でも、やりたいことに対して、部品を選べといっても、何を選んだらいいかわからない。こういう動作なら、こういうものがあるというのを、ひとつずつ調べていくところから始まった。そこがはじめての電気回路への入口。
塩谷:その中で、失敗談はありますか。
きゅんくん:いつも迷惑かけてるかも…。最後、私が納期に間に合わなくて、巻き取ってくれちゃうのがすごく悔しかった。最後まで自分でやりたいと思うからこそ、ギリギリまで自分でやろうとして、また迷惑をかける。最初に巻き取ってもらえてたら迷惑もかからない。
青木:基本、締切があるので(笑)。私が最後に3日徹夜すれば締切に間に合うギリギリのところまで(きゅんくんに)渡して、そこで出来上がっていなかったら自分でやりますね。もし出来上がっていれば、最後3日間はテストにまわせますし。
塩谷:2年間で学んできたことを、どんなふうにメカフに活かしていきたい?
きゅんくん:メカフを作っていた時は、アウトプット・物が動く・表示されることに興味がありました。今はセンシングなどに興味があって、もっとインタラクティブなことをやっていきたいなと思うようになりました。
ぐるぐると循環しながら、進化する技術
塩谷:青木さんは、最近のテクノロジーの変化をどんなふうに捉えていますか?
青木:最初「IoT」と聞いた時、それ「M2Mじゃん」と思いました(笑)。Machine to MachineがIoTになるために、昔はエッジから直接インターネットに繋がるよりも、途中にインターフェースがあり、それが集約してインターネットに上がる。SCADAとか言われているのがそうです。
ここ最近で思うのは、M2MがIoTになって、コンピューターの世界で言えば、計算機の資源がすごく進化してエッジに寄せる。それと同じで、PCとしてもCPUの精度が上がっているので、昔はメインフレームを使っていたところが、メインフレームが小さなPCになり、今度それが足りなくなってバーチャルマシンになり、で、またバーチャルマシンは、メインフレームに入っているような気がしています。
塩谷:ぐるぐるしている感じ?
青木:その感じはすごくありますね。
ネットを活用して、過去事例から学ぶ
塩谷:デジタル・ネイティブのきゅんくんからみると、こういうテクノロジーは当たり前に存在しているように見える?それとも、その中に進化を見つけておもしろい部分を見つけようとしている?
きゅんくん:次から次に新しいものが出てきて、ちゃんと過去を探ると同じようなことをやっている人がいる。少しずつ進化していると思います。そのため、ガツガツ情報を仕入れるというよりは、自分のやりたいことをやっていこうと。情報収集は、twitterでニュース見ることが多いですね。
塩谷:なるほど。青木さんも情報収集はします?
青木:直前まで試作しようと図面を引いていて、ちょうどさっきもtwitterを見ていたら、これ使えるなというのがあったんです。twitter、Web、SNS…やっぱりインターネットが多いですね。大学生や企業、ラボが多いコミュニティにも顔を出すので、そこから情報を仕入れることもあります。
二人がこれから学びたい領域とは
塩谷:エッジやIoTの中で、青木さんが特に注目、勉強したい領域はありますか?
青木:(勉強は)ずっとやらないといけないと思います。今、さくらインターネットさんにはお世話になっているので、クラウドを勉強したいんですけど、フォグに興味があって。
やりたいことの方が、技術の開発よりも先にある。何かができるようになったと思ったら、人間って一気に使い切っちゃう。使いきると足りなくなって、次から次へって。そうやって考えると、エリアがもう決まっていて、エッジからクラウドまでだと真ん中しかないと思うんです。
塩谷:フォグの部分は、どう捉えれば良いですか?特定の技術というより、考え方ですよね。
青木:OSにもインターネットにも、レイヤー分け、リング分けというものがあります。エッジやIoTの世界でいえば、リングプロテクションというアーキテクチャの考え方があって、外側がユーザー・真ん中がCPU。今そのリングは2つぐらいしかないんです。周りが空いている状態なのは、OSをつくる側や計算機が賢くなったから。今そうなっているのは、クラウドとIoT、エッジしかないと思います。そのうち真ん中を使わないと、たぶん帯域が足りなくなるんじゃないかなと。
塩谷:なるほど。きゅんくんは、これから習得したい技術はどんなもの?
きゅんくん:最近はプログラミングです。特に、ロボットのOSのプログラミング。ファーム、Cとかはちょっとやってきたんですけど、制御とかはあまりやっていなかった。なので、そっちをやってみようと思っています。
塩谷:今はエッジ、IoT、AI、クラウド、フォグ、ITもハードも電機も全部込みの世界。青木さんから見て、こういったことを学びたいという方に対するアドバイスをいただければと。
青木:勉強するには機材が必要ですよね。PCは持っているはず。ハードを知りたければ、2〜3千円で評価ボードが買える。3桁万円のものもありますけど。手元で勉強できるものが増えたので、それで学べるのがおもしろい。自分の給料から出せとは言わないですけど、そういうので勉強してみるのが良いのでは?試せる、どんどん手を動かしてやってみるのが一番だと思いますね。
クロスオーバーしながら学び続ける
塩谷:会場から質問をいただいているのので、ぜひその質問にもお答えしていければと。
司会者:エッジやIoT・AIの進化に伴って、どのような職種のエンジニアが増えると思いますか?というご質問をいただいています。
青木:職種は変わらないと思います。それよりも取ったデータを活用することが大切で、エレキの特化したエンジニア、Webのサーバサイドに特化した人というよりは、特化した上で相手の領域が少しわかる、という人が重宝される。エレキをしっかり理解していて、ファームも少し分かるとか、その逆でファームをがっつり理解していて、エレキが少しわかる、とか。少しクロスオーバーした領域を理解したエンジニアが増えそうだなと。
塩谷:きゅんくんのような、若手の視点からはどう見えるの?
きゅんくん:周りをみていても、自分の専門分野がありその上で他の分野も分かる人は重宝されていると実感しています。自分の軸があって、その他のことも分かっている人とは、すごく仕事がしやすいなと思いますね。私は、機械を主軸にしようと思っていたのですがが、エレキもやりたいなぁと思っています。やりたいなと思ったことをやらないと身につかないですし。
青木:私は、最初は流体が主軸、気液二相流という気体と液体が混層するなかで回析をすることをやっていました。その流れで、流体関係の高速回転機器のターボチャージャーを作っていたんですけど、制御なので絶対に電気の知識が必要になり、そこからさらにシーケンサ、PLCが入ってきて進化し、それだけでは間に合わないのでマイコンが入り、全体制御のためのプログラミングが入り…という順番です。
塩谷:クロスオーバーしながら学んでこられたんですね。
きゅんくん:青木さんなんでもできると言われていますけど、ご自分ではどう思われてるんですか?
青木:機械屋(笑)。ファームウェアやソフトコードは趣味ですね。
きゅんくん:経営ができるエンジニアって珍しい。それはどこで学んだんですか?
青木:最近、某Rubyのエンジニアからも全く同じことを聞かれた(笑)。経営もソフトウェアのエンジニアと大きくは変わらないと思います。課題があって、それを解決し、使っている中で問題が起きれば、破綻する前にそれを解決する。経営も一緒です。PL引く時は絵に描いた餅で、「〜〜なはず」でやってるんです。そこから、危ないのを早めに察知して、改善する。完全に一緒ですよね。
塩谷:エンジニアがクロスオーバーしながら学びながら色々な人と協業してものづくりをする時に、例えば部署間の壁など、さまざまな壁にぶち当たると思います。それを乗り越えていくために必要なことはありますか?
青木:上司に腹をくくってほしい、メンバーには、腹をくくった上司についてきてほしいということですね。失敗したら「ごめんなさい」で良いと思います。責任を持つことが大事かと。
SNSを活用して、能動的に情報収集を
司会者: 次に、情報収集でよく使っているハッシュタグを教えてほしいというご質問をいただいています。
きゅんくん:情報くれそうな人をフォローすることの方が多いです。ハッシュタグはtwitterよりもインスタで使っていますね。インスタは、ファッションだけじゃない。電子工学…みたいな英語のハッシュタグがあるんですよ。著名人や一般の方はもちろん、ニュースサイトなどもフォローしています。青木さんはどうですか?
青木:ハッシュタグで見ているものはほとんどなくて、ソフトウェアのハッシュタグくらい。カーネルVMのハッシュタグとか。そこはよく見ますね。特定のハッシュタグで何かを検索しにいくというのは、あまりやったことがないです。ニュースとか人とか。あとは、気になったことを調べることが一番多いですかね。
塩谷:能動的に調べるということですね。私もエンジニアなので同じような経験があるのですが、情報を探していると、英語の情報にあたることが多く、だからエンジニアは割と英語を読んだり理解することができると言われている。お二人も同じですか?
きゅんくん:青木さんはアメリカにいらっしゃったことがあるので英語での会話もできるのですが、私はテキストを読むことは頑張っていますが、話すコミュニケーションはまだまだ苦手です。
青木:英語であればまだ良い方で、ググってもロシア語とかもある。何度やってもロシア語しかないので、仕方なくロシア語を調べ始めると。特にWi-Fi系のものは。あとは、スペインのものにぶちあたることが多いので、スペイン語とかもありますね。
きゅんくん:最近は中国語にもぶちあたりますね。部品の工場が中国だから、データシートが中国語とかもありますね。
青木:他にも、ドイツ語もあります。
外見を気にするのではなく、一人の人間として人を見る
司会者:次の質問です。青木さんの髪が青いのはいつからですか?
青木:(笑)。DMM.make AKIBAに来てからだから…。2年ほど。その前が何年か黒で、でっかい会社にいたときは茶色でしたね。
きゅんくん:髪色を変えられるような会社にいるということですよね。社風や自分のいるコミュニティの雰囲気を伝える手段の一つだとは思います。
塩谷:自分の学びを深めていくために、コミュニティに入りたいと希望する人の中には、「色々な髪の色の方がいらっしゃるコミュニティ」に入ることをためらう人もいると思うのですが、どう思われますか?
きゅんくん:ためらってしまう気持ちが、私にはわからないのですが…、相手をただの人として考えて、それ以外のレッテルを全て取り除いていくと、コミュニケーションがうまく取れると思います。
青木:「人間でエンジニア」なんで、仕事する人という感覚しかない。エンジニアは本質を見る必要があるので、外からコミュニティを覗いてみて、その後入れば良いのではないでしょうか。急にコミュニティに入ることは、怖いと思う気持ちも、確かに分かります。
技術者とはどのような存在か
司会者:最後の質問です。3人にとって「技術者」とは?
きゅんくん:技術を持っている人、技術を探求してる人というのはもちろんあるのですが、私は事実を追おうとする人だと思います。こういう世界をつくりたいとか、事実を積み上げていって、モノやコトをつくりあげていく人。テキストだったり、正しいことを集めていった上で新しいものをつくる人だと思います。
青木:技術者は、もしかすると研究者とかぶるかもしれないと思うのですが、飽きっぽい、なまけもの、そして最後に絶対に必要なのは、たったひとつの興味を持ち続けられること、の3つが大切だと思います。
飽きっぽいことは、色々なことを知りたい欲求だと思いますし、怠け者で怠惰であることは、なるべく楽をしよう・効率化しようという人。例えば、同じルーティン作業があるならプログラミングしてしまおう、ハードに任せてしまおうなど、それをやるには、怠惰で怠け者な人の方が良いと思うんです。そうすると時間ができるはずなので、たった一つの自分の興味があることを最後までやっている人がエンジニアのかなと。結果がでれば、その人が肉体労働しようが、頭脳労働しようが、コンピューターがやろうが気にならないはず。
塩谷:そうですね。自分もお二人と似ているかもしれません。個人的には、自分勝手なんだけど成果を出せる人が好きですね。そんなに人の言うことを聞かないし、自分が良いと思ったことはやっちゃう。やりたくないことはやらない。それであっても、周りの期待を凌駕する結果を出しちゃう、そんな技術者でありたいですし、そんな技術者が大好きです。
司会者:きゅんくん、青木様、塩谷様。本日はありがとうございました。